「見えない11km」を可視化。天竜川カヌー大会2025のGPS活用事例

2025年8月24日、長野県下伊那郡。
伝統ある「第51回 全日本天竜川カヌー競技大会」が開催されました。

諏訪湖を源とする天竜川の激流を下り続けるこの大会は、スタートからゴールまで約11km。
100艇を超える選手たちが一斉に川を下る「ダウンリバーレース」は圧巻ですが、その裏で大会運営には長年の課題がありました。

それは、「レースの途中経過が、陸からは全く見えない」 ということです。

今回、HAWKCASTによる「ライブトラッキングシステム」が導入され、この課題に一つの解が提示されました。
単なる位置情報の表示にとどまらない、「安全管理」「観戦体験」「記録計測」の3つを同時に変革した導入事例をご紹介します。

11kmのブラックボックス。現場が抱えていた不安

ダウンリバーレースは、自然との戦いです。
選手は激流のラインを読み、パドルを漕ぎ続けますが、運営側から見ると「スタートしたら最後、ゴールに姿を現すまで何も分からない」という状況が生まれます。

1. 安全管理の死角

コース上には複数のレスキューポイントが配置されていますが、全体を俯瞰することは不可能です。
「誰がどこで転覆(沈)したのか」「リタイアした選手は回収されたのか」。
これまでは無線連絡のリレーに頼らざるを得ず、本部が状況を把握するまでにタイムラグが発生していました。

2. 観戦の不可能性

スタート地点で見送った家族やコーチは、車で先回りしてゴール地点で待ち構えます。
しかし、待っている数十分間、レースがどう動いているのかを知る術はありません。
「今トップは誰なのか?」「自分のチームの選手は無事なのか?」。
ゴール地点は静寂に包まれ、ただ選手が現れるのを待つだけの場所になっていました。

3. ゴール判定の難しさ

ゴール地点は、激流を下ってきた選手が猛スピードで通過する場所です。
しかも、波しぶきや選手の位置取りによっては、「ゼッケンが見えない」 という事態が頻発します。
目視での記録計測は常にミスのリスクと隣り合わせで、正確な順位判定は熟練の審判員の目に委ねられていました。

解決策:全艇の「現在地」を地図上にプロット

これらの課題を一挙に解決したのが、HAWKCASTによる「GPSライブトラッキング」です。

システムは非常にシンプルです。
選手のボートにGPS端末(スマートフォン等)を搭載し、リアルタイムで位置情報を送信。
本部とゴール地点に設置された大型モニターには、天竜川の地図と、全艇のアイコンが動く様子が映し出されました。

映像を送るのではなく、「データ(位置情報)」でレースを可視化する。
電波状況が不安定になりがちな山間部の川においても、この方式は極めて有効でした。

導入効果:運営の「目」が届く安心感

導入の結果、大会の景色は劇的に変わりました。

① 安全管理:「異常」を即座に検知

地図上でアイコンが動かなくなれば、それは「何かがあった」合図です。
「XXキロ地点で1艇停止中。沈の可能性あり」
本部から直近のレスキュー部隊へ、ピンポイントで指示が飛びます。
「見えない不安」は解消され、確信を持った安全管理が可能になりました。

② 観戦体験:ゴール地点がスタジアムに

静かだったゴール地点は、パブリックビューイング会場へと変貌しました。
モニター上のアイコンがデッドヒートを繰り広げ、トップ集団がゴールに近づくにつれて会場のボルテージが上がります。
「あと1km!」「〇〇選手が抜いたぞ!」
目に見えないはずのレース展開が、データによって「観戦できるエンターテインメント」に変わった瞬間でした。

③ 記録計測:「予測」でミスをゼロへ

現場で最も喜ばれたのが、記録計測の支援でした。
GPSトラッキングを見ていれば、「次にどのゼッケンの選手が飛び込んでくるか」が事前に分かります。
波でゼッケンが一瞬しか見えなくても、「次はゼッケン51番が来るはずだ」という予測があるだけで、判定の精度は飛躍的に向上します。
手動計測のバックアップとして、GPSによる自動タイム計測も機能し、速報リザルトの作成もスムーズに行われました。

赤いパイロンが対岸にもあり、GPSの二点間でゴールラインを形成し、タイム計測を行なっています。

今後の展望

「見えないものを可視化する」。
HAWKCASTが提供したのは、単なるシステムではなく、大会運営の「安心」と「熱狂」でした。

今回の天竜川での成功は、他のロングディスタンス競技(トライアスロン、自転車ロードレース、トレイルランニング等)にも応用可能なモデルケースです。
広大なフィールドで行われるスポーツにおいて、死角をゼロにし、安全と興奮を両立させる。
HAWKCASTは、スポーツ大会の「当たり前」をこれからもアップデートし続けます。